前立腺肥大症
1. 前立腺とは
前立腺は膀胱のすぐ下に位置し、尿道を取り囲むように存在する臓器です。
男性だけに存在する臓器で、精液の一部を作っています。
大きさは正常では約20cc程度です。解剖学的に外腺、内腺の2つの領域に分かれています。
2.前立腺肥大症(BPH:benign prostate hyperplasia)とは?
内腺領域が年齢とともに大きくなってきます。
40歳を過ぎる頃から徐々に大きくなると言われていますが、個人差が非常に大きく、全く肥大のない人もおられます。
内腺が大きくなることで、尿道が圧迫され、物理的に尿が出にくくなります。
また尿が貯まることによって尿意を感じるため、残尿が増えることで排尿後にすぐにトイレに行きたくなったり、次にトイレに行くまでの間隔が短くなったりします。
膀胱は筋肉で出来ており、尿が出にくくなると圧力を強くして尿を出そうとしますが、その圧力が強くなりすぎると膀胱の血流が悪くなり、血流が生き残った部位の神経が過敏になり、過活動膀胱(OAB:over active bladder)という状態を引き起こします。
つまり前立腺肥大症は尿が出にくくなるとともに尿が近くなるという状態を引き起こします。
3. 主な検査
検査としては検尿、腹部超音波、採血を行うことが多いです。
検尿では膀胱炎などの感染症や血尿、尿蛋白、尿糖の有無、尿比重、円柱の有無などをcheckします。
腹部超音波では前立腺の大きさ、残尿量、膀胱の形、膀胱癌や膀胱結石の有無、腎臓の形態、水腎症の有無などを精査します。
採血では腎機能、肝機能などに加えて、主に50歳以上の男性にPSA(前立腺特異抗原:prostate specific antigen)を測定して前立腺癌の鑑別を行っております。
また治療がなかなか効かない場合などには、膀胱鏡で尿道狭窄の有無を確認することもあります(以前尿道バルンなど入れた事がある場合には一定の割合で起こりえます)。
4. 主な治療
【内服治療】
α1-blocker
前立腺肥大症の治療薬としては現時点では第一選択になる治療薬です。
膀胱の出口や尿道の平滑筋に作用して筋肉を緩めることで尿を出やすい状態にします。
最近の薬は副作用も軽減しておりますが、起立性低血圧(立ちくらみ)、下痢などの副作用ができることがあります。
PDE5阻害薬
勃起不全の治療薬が、膀胱や前立腺の血流を改善することによって機能を向上させることが分かっています。
当院のある兵庫県内では今現在では50歳以上の男性で処方可能です。
手足の血流も改善され、血管障害の予防にもなると言われています。
合併症としては頭痛や四肢の熱感などがあげられます。
また狭心症治療薬である硝酸薬との併用は急激な血圧低下をもたらすため禁忌であり、冠動脈CTなどの造影検査の場合には必ず申し出てください。
5α還元酵素阻害薬
前立腺を小さくして物理的に尿を出やすくする薬です。
飽くまで個人的な意見ですが、使った印象としては前立腺の大きさが3分の2程度になります。
即効性はなく、効果が出るまでに3~6か月の内服期間が必要です。
前立腺癌の予防効果も期待されておりますが、はっきりとしたエビデンスは確立されておりません。
注意点としてPSAがほとんどの場合で低下するため、PSA結果を2倍にして考える必要があります(PSA 1.5ng/mlであれば2倍の3.0ng/mlが本来の数値だと考えます)。
副作用としては毛髪が増えたりすることがあります。
その他の治療薬
エルニチンポーレンエキスやクロルマジノン酢酸エステルなどの治療薬があります
【手術】
内服薬での効果が薄い場合、出血を繰り返す場合、膀胱内に結石ができている場合などには重症度が高く、手術を選択することもあります。
以前はTUR-P(trans urethral resection of prostate:経尿道的前立腺切除術)と言って前立腺を削っていく治療が主流でしたが、現在ではHoLEPといってレーザーで内腺と外腺の間を剥がしていく手術が多くなっております(前立腺の大きさによってはTUR-Pの方を選択することもあります)。
メリットとして再発が少ない事、抗血小板薬などを内服していても可能であることなどが挙げられます。
手術の合併症としては術後出血、尿失禁、膀胱損傷、尿道狭窄などが挙げられます。
当院では手術はできませんので、提携病院に紹介して手術をお願いしております。
【自己導尿】
内服治療や手術で効果が薄い場合などには自己導尿での治療も検討します。
膀胱内には細菌がいないため、手洗いや消毒が必要ですが、尿道バルンカテーテルの留置に比べて疼痛やにおいなどの合併症が少ないため、自立した患者さんには指導する場合があります。
合併症は膀胱炎や精巣上体炎などの尿路感染症があります。
【尿道バルンカテーテル留置】
内服薬などでの治療効果が薄く、自己導尿が困難な方などには尿道バルンカテーテルを留置しております。
においやカテーテルの閉塞のため、約4週間毎の定期交換をすることが多いですが、閉塞しやすい方には早めの交換を行っております。
バルンを留置していて、管やバッグが紫色に変色することがありますが(パープルウラインバッグシンドロームなどと言われており、便秘症の方などに見られやすいと言われています)、治療は必要ありません。